第6回 国際多系統萎縮症コングレスが開催されました.
2018年3月1-2日に,ニューヨークにて,第6回国際多系統萎縮症コングレスが開催されました.このコングレスは,2年毎に開催されるもので,今回は,ニューヨーク大学 (New York University) のHoracio Kaufmann教授が大会長を担当して開催されました.
Kaufmann教授の開会の挨拶に続いて,1997年のノーベル医学生理学賞受賞者である Stanley B. Prusinerの基調講演がありました.彼は,クロイツフェルト・ヤコブ病の研究からプリオン仮説を提唱したことで有名です.多系統萎縮症はオリゴデンドログリア細胞を中心に,α-synucleinというタンパク質が異常に凝集して封入体を形成することが,重要な病理学的所見と考えられています.Prusinerは,多系統萎縮症の類縁疾患であるパーキンソン病を遺伝的に引き起こすα-synuclein変異を組みこんだ細胞,モデルマウスを用いて,多系統萎縮症患者脳から抽出したα-synucleinを投与する事により,α-synucleinの構造変換,伝播を引き起こし,神経細胞変性を生じるという最近の成果を発表しました.プリオンタンパクの伝播は孤発性神経変性疾患の発症機構として注目されている領域で,今後の研究の発展が期待されます.
このコングレスは8つのセッションで構成され,根本治療,対症療法,遺伝学.神経病理学,バイオマーカー,ビデオセッション,診断基準に関する国際共同研究,研究支援体制などについて発表がありました.辻は,遺伝学のセッションで最近の成果を発表しましたが,このセッションでは,英国のロンドン大学(University College London)の Henry Houlden, 米国National Institutes of HealthのSonja Scholzからの発表がありました.多系統萎縮症は,遺伝的な要因の関与について,まだ未解明のことが多いのですが,疾患発症に低頻度のゲノム変異が関与している場合,十分な検出力を確保するためには解析規模を大きくする必要があり,国際共同研究による大規模解析が必須であるということがこのセッションで議論されました.
治療面では,米国のMayo ClinicのWolfgang Singerが,ヒト間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cells:MSC)を用いた第II相臨床試験の報告がありました.小規模のオープントライアルであるものの,有効性が示唆される結果が報告されました.有効性を確認する次の試験の実施が待たれるところです.
多系統萎縮症の研究者コミュニティは,あまり大規模でないことから,コミュニティ内の交流が活発で,顔なじみの研究者が集う家族的な雰囲気の研究会でした.
(報告:辻 省次)